ICHIROYAのブログ

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世界で一番おもしろくない話

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太公望の名古屋帯


世界で一番面白くない話といえば、なんといっても「釣り」の話である。
誰かが「釣り」の話を始めたら、さっさと逃げるが勝ちである。

そのあたりのことは、よく心得ているので、釣りの話がしたいときは、相手を席から立ちにくいところに追い込んでから始める、もしくは、従順な部下など立場上僕の話の腰を折れない相手を選んで始めることにしている。

なぜ、おもしろくないのかもよくわかっている。
なんで、そんなに、めんどくさいことをするんだよ、って話だ。

釣りにも高尚度みたいなランクがある。
渓流釣りでいえば、

エサ釣り→ルアーフィッシング→フライフィッシング

の順である。

餌釣りをするためには、ミミズをつまんで、ぶちゅっと針にさす必要がある。
もっと凝ってくると、川に入って、石を裏返し、ヒラタっていうサソリの子供みたいなのを採る。ヒラタっていうのは最高級のごちそうである。2~3ミリしかない白いそいつはかなり美味そうで、たくさんとれて、餌箱にそいつがうじゃうじゃしているのを見ると、相当幸福になる。

餌のかわりに、きらきら光る餌の小魚を模した、ルアーを糸のさきにつけて投げる、という手もある。100万という種類があって、その日の太陽光のスペクトルや、川の下の石の色、餌になっている魚の種類、川の流速や深さ、狙う魚の大きさなどによって、たったひとつの最適ルアーを、100万の中から選びだすのである。
ルアーも高いものから安いものまでたくさんある。
選び抜いた2000円ぐらいのルアーが2,3回しか投げていないのに、根がかりして回収できなくなるのも、また、ルアーフィッシングの醍醐味である。

そして、フライは、渓流を飛ぶ虫や水柱虫の虫を模した疑似餌を自分でつくって、鞭のようなライン(釣り糸)を投げて・・・
(以下、24行、カット)

季節にもよるが、まあ、早い話が、餌釣りのほうが簡単でたくさん釣れるのである。
が、人間というのは勝手なもので、たくさん釣れすぎても飽きてしまう。
そこで、あえて、難しい方法で釣って、自慢したいという思いがむくむくとおきてくるわけである。
でも、とくに関西では、気候と釣り人のプレッシャーの高さで、フライの釣りはなかなか釣れない。
・・・(以下、10行、カット)

なので、僕は、餌釣りとフライを持っていき、場面場面で柔軟に持ち変えるようにしている。
その日、川に最初に入るときは、餌。
その日、一番良いポイントにさしかかったら、餌。
雨上がりで、魚の活性が高いときは、餌。
そして、その日一番大きな魚が釣れて、写真を撮るときは、フライ、である。

ところで、ある時、渓(たに)の神様に出会ったことがある。
あがりかけの雨がまだ降っている奈良の山奥のある渓流。
まずまずの釣果にいい気になって渓(たに)を釣り上がっての帰り。
上りの時より水位があがり、流れも早くなっており、岩場を這うように降りたり、ぎりぎりまで、水に入って渡ったり、ちょっと危険な状況に。
ロッククライミングの技術はなく、無事に帰り着けるか心配になってくる。雨は上がりかけで、もう、水位は上がらないだろうと思ったのが甘かった。
ついに、ある岩にはりついたまま、動けなくなった。下半身は流れの中で、その流れが強烈で、それ以上、横に動けないのである。
上は垂直の岩である。
手を離して、一か八か流れに身をまかせるか、その岩をなんとしてでも登るか。
ほかに選択肢はない。
登ってみることにした。
シロウトのロッククライミングである。
手掛かりを探して指をかけ、力を込めて身体を引き上げる。
岩も当然濡れており、滑る。
雨に濡れた寒さのせいか、筋肉の疲れか、身体が震える。
それでもなんとか、下半身は水面から引っ張り出し、身体は、徐々に上がっていった。
そして、そこを超えれば、なんとかなりそうだ、という取っ掛かりに指をかけて、大きく身体を持ち上げたとき。
目の前が、ちょうど小さな神棚のように、岩が窪んでいた。
そして、そこにいた、そいつが、ぎょろりとした眼で、僕をまっすぐに睨んでいたのである。
僕は、わけがわからず、あまりに驚きと恐怖に、両手を危うく離しそうになった。

なんと、そいつは、鏡餅ほどもある、大きな大きな蛙だった。

そんな大きな、威厳のある巨大な蛙は、動物園でも見たことがない。

僕は、その後、なんとか岩を登りきって、無事に渓をくだることができたのである。
それはきっと、あの蛙さまのお陰で、あの渓の神様だったに違いないと思っている。

あれ、誰かいます?
誰も、ここまで読んでないって?
そりゃそうでしょ。
今日は、世界で一番おもしくない話なんですから。