ICHIROYAのブログ

元気が出る海外の最新トピックや、ウジウジ考えたこととか、たまに着物のこと! 

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若き日の旅行の懺悔(世の中で最も臭いもの)

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旅の図 アンティーク着物

 

ゴールデンウィークである。
景気が悪いと思っていたら、案外皆さんお元気で、海外旅行へいかれる方も多く、12年ぶりの高水準らしい。
うちも後半、旅行に行くのだが、それはそれとして、若いころの貧乏旅行を思い出した。

大学2年の夏。
学校もクラブも夏休みで、1週間、バイトも入れずに、一人旅にでかけることにした。
カネはとことんない。
そうだヒッチハイクで、北海道に行こう!
京都から北海道まで。
京都南インターまで友達におくってもらって、いざ、出発!

最初、道端に立って、指を上げて、サインを出すのは、かなり恥ずかしい。
あれはなに? 家族連れは、車で通りすぎる気軽さから、ジロジロとみつめていく。
北海道など、ヒッチハイクの似合う観光地では、まだ、良いのだ。
なんだか、「ヒッチハイクという冒険をしている自分」を、すこし誇らしく思ったりできる。
だけど、大都市周辺で、指を立てるのは、勇気がいる。
車の量は多くても、都会独特の人の薄情さが、ヒッチハイカーを拒絶するのだ。

いっぽう、観光地でもない、ふつうの田舎では、かなりの確率で、車はとまってくれて、何をしているのか、と声をかけてくれる。
ヒッチハイクのサインなど知らないけど、困っているひとがいる、となると、いてもたってもいられない、という感じである。

都会周辺では、交通量が多く、たくさんの車にサインを送れる。
田舎の道では、交通量が少なく、たまにしか車は来ない。
でも、不思議なことに、つぎの乗せてくれる車に巡りあうまでの時間は、だいたい、どちらも平均数十分である。

ヒッチハイクのマナーはひとつ。
乗せていただいいる間、運転手や同乗のかたを、退屈させないよう、精一杯の努力をすること。
もちろん、眠ってしまうのは、厳禁。
それだけのことなのだが、文章を書くのは好きでも、話すことは苦手な僕には、かなりの苦行。

おもしろい話はできないので、なるべく、聞き手にまわるのだが、運転手さんとの相性が悪いと、会話はポツポツ途切れ、やがて沈黙が支配。
一度などは、沈黙が続き、「やっぱり、もう、降りてもらえますか」と言われる始末。
深夜、長距離お世話になった気のいい運転手さんは、「人の道」について、長い長い話をしてくれる。こちらから話す必要がないので、安堵して、「はい。そうですね。なるほど!」などと相槌をうっていたら、気が緩みすぎて、眠り込んでしまった。
ふと気づいたときには、トラックは朝靄のなかを突っ走っており・・・

十和田湖あたりでは、年配の、とても優しく陽気なご夫妻が乗せてくれた。
なにか言うたびに、わっはっは、と、車の中は笑いが弾ける。
僕も、嬉しくて、わっはっは!
でも、問題は、おふたりのしゃべっている方言がきつく、おっしゃっていることは、冗談や誇張ではなく、なにひとつわからないのである。
でも、会話のボールがこっちへきたら、なんでもいいから適当にしゃべって、ボールを返す。
「◯△☓★※★*◯△☓★※★*!」とおじいちゃん。
「ぼくもそう思います!まったく、すばらしいですよね!」
「❏■◯△☓★※★*◯△☓★※★*■☓!」とおばあちゃん。
「わっはっは!」とおじいちゃん、おばあちゃんと僕。

宿泊は、駅である。
というか、正確に言うと駅の外である。
たいていの駅は、最終が出てしまうまではいることができるのだが、最終から始発までは、駅舎にいることはできない。
最終到達点の札幌でも、駅から追い出されたあと、駅の外のひさしの下で、疲れきって熟睡していた。
朝、なんだかざわざわするので、目が覚める。
見開いた目に飛び込んできたのは、通勤に急ぐ人々の朝の雑踏の足、また足であった。

さて、だれも教えてくれなかったが、ヒッチハイクのマナーには、じつは、もうひとつ、とっても大事なことがあったのである。
北海道からの帰り道。
青函連絡船に乗ってみることにした。
なんとかヒッチハイクで北海道までくるという目標は達せしたぞ、竜馬!
津軽海峡の波を見ながら、僕は、限りなく広がる自分の未来を思って身震いした。
そして、連絡船にシャワーがあったので、シャワーを浴びて、貧乏旅行の垢を落とした。
さっぱりして、それまで、自分が来ていたシャツを手にとったとき、それに気づいたのである。

臭い!
とにかく臭い!
洗わないアイスホッケーの防具の臭さにふだんから接している僕である。
が、そのときの、僕のシャツの臭さといったら、それまで生きてきて、文字通り、経験したことのないような、強烈さ、えづきそうな臭いである。
汗まみれになって歩き、道路の埃を長時間浴び、駅の雑踏に紛れて寝転んできたのである。シャツも1枚を着っぱなしというわけではなかったと思うのだが、おそらく、それらすべての臭いが身体と髪に染みこんでいたに違いない。

あのとき、僕を乗せてくれたこころやさしいドライバーに皆さん。
さぞ、臭かったでしょう。
乗せた以上、すぐに降ろすわけにもいかず、えづきそうになりながら我慢してくださっていたんですね。
「やっぱり、降りてくれる」といってくれた人、すみませんでした。僕の話がおもしろくないから、僕がきらいになったわけじゃなかったんですね。
十和田湖のご夫妻。
ひょっとして、通じていない会話は、こんな風だったんじゃないでしょうね。

「なあ、お兄さん、ちょっと臭いよ、だいぶん臭うよ!」とおじいちゃん。
「ぼくもそう思います!まったく、すばらしいですよね!」と僕。
「素晴らしくは、ないわよ。後部座席にいても吐きそうよ!」とおばあちゃん。
「わっはっは!」とおじいちゃん、おばあちゃんと僕。

  
ああ、
ご好意を、
とんでもない悪臭でお返しして、
ほんとうに、すみませんでした!